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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)892号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  被控訴人は、次のとおり述べた。

(一)  原判決記載(一)の手形は、一五回書き替えられた一六枚目の手形であり、同(二)の手形は、七回書き替えられた八枚目の手形である。

(二)  控訴会社は被控訴会社から借金し、その支払のため最初の各手形を振り出したものであるが、右借金契約ならびにその支払のためにする手形の振出については、昭和三五年三月一〇日に開催された控訴会社の取締役会において承認をえたものである。

三  控訴人は、次のとおり述べた

(一)  かりに、昭和三五年三月一〇日に控訴会社取締役会において承認決議があつたとしても、右取締役会は、取締役二名(岡部為三、白井卯蔵)に対し招集通知をせずに開催されたものであるから、その決議は無効である。

(二)  かりに、右決議が無効でなく、また、本件手形二通が、被控訴人主張の借金の支払のために振り出されていた手形の書替手形であるとしても、四年半前にされた右決議は、時の経過と、長棟至元の代表者辞任が必至であるという事情の変化により、本件手形振出当時はすでに失効していたものというべきである。

四  (証拠省略)

五  以上のほか、当事者双方の主張・立証・書証の認否は、原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決二枚目表三行目に「中央信用金庫杉戸支店」とあるのを、「中央信用金庫駒形支店」と訂正する。)。

理由

一  控訴会社が、被控訴会社にあて原判示(一)(二)の約束手形(ただし、支払場所は、中央信用金庫駒形支店)を振出交付し、被控訴会社が現にこれが所持人であることは、争がない。

二  控訴人は、右手形は、控訴会社の当時の代表取締役長棟至元が、取締役会の承認決議を経ずに被控訴会社(代表取締役は同じく長棟至元)にあて振出交付したものであつて、商法二六五条に違反し無効であると主張し、被控訴人は、右手形は書替手形であつて、その最初の手形の振出およびその原因である被控訴会社からの借金については、昭和三五年三月一〇日に控訴会社取締役会の承認決議があつたと主張する。

しかし、右取締役会の開催については、当時の取締役の一人である岡部為三に対し招集通知をせず、同人および白井卯蔵取締役が出席しないまま決議がされたことは、被控訴人の自認するところであるから、右取締役会における承認決議は、その招集手続が商法二五九条ノ二に違反し、無効であるというべく(そののち右不出席の二名の取締役が右決議内容を承認したとの被控訴人主張事実は、これを認めるに足る証拠がない。)、したがつて、取締役会の有効な承認がないままされた被控訴人主張の借金契約(特に控訴会社のため取締役会の承認を要しない有利な契約であるとの主張、立証はない)ならびに該借金支払のための本件約束手形振出行為(書替手形の発行につき取締役会の承認があつたことの証拠はもとよりない)は、すべて無効である。

三  よつて、その余の争点について判断するまでもなく、被控訴人の本訴手形金請求は理由がないから、これを認容した原判決を取り消し、民訴法八九条、九六条を適用して、主文のとおり判決する。

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